怒涛のマレーシア編
Ⅴ. 人生初のDCA試験
マレーシアでの生活にも、少しずつ慣れてきました。
……と言いたいところですが、毎朝だけは最後まで慣れませんでした。
まだ外は真っ暗な午前5時前。
突然、街中のスピーカーからコーランの朗唱が響き渡ります。
イスラム教徒が多いマレーシアでは、ごく当たり前の朝の風景です。
最初は何事かと思って飛び起きました。
ようやく静かになったと思ったら、今度は近所中のニワトリが一斉に鳴き始めます。
コケコッコー!!
コーランが終わればニワトリ。
毎朝このリレーで目が覚める生活でした。
最初は戸惑いましたが、不思議なもので、それもいつしかマレーシアの日常になっていました。
昼はMalaysia Flying Academy(MFA)でATPLの授業。
夕方になるとマコタ・コンドミニアムへ戻り、マラッカ旧市街のお気に入りのカフェへ向かいます。
注文するのは、決まってテタレ(Teh Tarik)。
マレーシア名物の甘いミルクティーです。
初めて飲んだ時は、その甘さに驚きました。
それでも毎日のように飲んでいるうちに、勉強のお供として欠かせない存在になっていました。
教科書を開く。
- Air Law(航空法)
- Aircraft General Knowledge(航空機一般知識)
- Flight Planning & Performance(飛行計画・性能)
- Human Performance & Limitations(ヒューマンファクター)
- Meteorology(気象)
- Navigation(航法)
全部で6科目。
MFAではグランドスクールの進み具合に合わせて、2科目ずつDCA学科試験を受験していくスタイルでした。
ATPLの勉強自体は、実は初めてではありませんでした。
ニュージーランドでCPL(事業用操縦士)を取得したあと、すぐにオーストラリアへ渡り、ライセンスを**CASA(オーストラリア民間航空安全局)**へ書き換えました。
その際、CASAのATPL学科7科目も受講しています。
だからATPLという言葉に気後れすることはありませんでした。
しかし、マレーシアのDCA学科試験は別物でした。
同じATPLでも、国が違えば航空法も違う。
試験の傾向も違う。
重視されるポイントも違う。
だからこそ、ローカルの学生たちが持つ過去問や情報は何より貴重でした。
「この問題は毎回出る。」
「この分野は必ず見直しておけ。」
そんな情報が、合格への近道だったのです。
そして、いよいよ最初のDCA学科試験の日。
試験会場はマラッカではありません。
向かったのは、首都近郊・プトラジャヤにあった当時のDCA(Department of Civil Aviation)。
現在は**CAAM(Civil Aviation Authority of Malaysia)**へ名称が変更されています。
日本でいえば、国土交通省航空局のように、パイロットライセンスや学科試験を管轄する航空当局です。
まだ夜が明けきらない時間。
7人は専属ドライバーのバンへ乗り込み、高速道路を北へ走ります。
普段なら誰かが冗談を言い、笑い声が響く車内。
しかし、この日だけは違いました。
教科書を見直す者。
窓の外を眺める者。
静かに目を閉じる者。
そして、相変わらず何を考えているのか最後まで分からないフクさん(笑)。
それぞれが、自分自身との戦いに向かっていました。
やがてプトラジャヤへ到着します。
目の前に広がっていたのは、近代的な官庁街でした。
整備された道路。
ガラス張りの建物。
美しく計画された街並み。
「本当にここがマレーシアなのか?」
当時、自分が抱いていた"発展途上国"というイメージは、一瞬で覆されました。
その中に、DCAの建物が見えてきます。
「あれか……。」
ニュージーランド。
オーストラリア。
アメリカ。
八重洲の居酒屋。
そして、マレーシア。
決して一直線ではなかった人生。
それでも、そのすべての経験が、この日のためにつながっていました。
深呼吸を一つ。
教科書を閉じる。
私はゆっくりとDCAの建物へ向かって歩き始めました。
ここが、エアラインパイロットへの新たな関門でした。
エアラインパイロットの憧れ……
夢への一番長い滑走路は、飛行機ではなく、自分自身の人生でした。
ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、日本、そしてマレーシア――。
遠回りに思えたすべての経験が、このDCA試験という新たな一歩につながっていたのです。😿
DCA(現在のCAAM)
※当時のDCA(Department of Civil Aviation)は、現在は**CAAM(Civil Aviation Authority of Malaysia)**へ名称が変更されています。
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