✈️ ALL ENGINE FAILURE ― 音が消えた空と、手順の意味。 あなたならどうする?
航空業界において、飛行中の**エンジン全停止(ALL ENGINE FAILURE)**という事態は、
パイロットにとっても、乗客にとっても、最も恐ろしいシナリオの一つです。
これは映画の中だけの出来事ではありません。
実際の運航や訓練においても、“すべての推進力を失った機体を、どこまで操れるか”という問いは、
航空の本質に触れるものとして、繰り返し検証され続けています。
私がA320型機のトレーニングの中で直面したALL ENGINE FAILのシナリオは、
一見“紙の上の演習”に見えて、実際には深い緊張と判断力を問うものでした。
――警報音が鳴り、エンジン音が消える。
その瞬間、静寂に包まれたコックピット。
頭の中に浮かぶのは、訓練で繰り返し叩き込まれた手順と、QRHのページ番号。
外の景色は穏やかだった。
雲を突き抜け、陽光が斜めに差し込む巡航中のコックピット。
いつもと変わらぬ航行計器、軽く鳴るチャイム、機体のわずかな振動。
だが、その「日常」は一瞬で崩れる。
【ALL ENG FAIL】という警報表示。
油圧も、空調も、静かに沈黙し、
次々と落ちていく電源系統の表示。
“すべての推進力が失われた”――
それは航空機にとって、飛行中の心停止を意味する。
操縦席の中、沈黙と緊張だけが支配する空気。
だが、クルーに与えられた時間は、わずか数十秒。
この完全な静寂の中でこそ、機体と人間の真価が試される。
あなたなら、どうするか?
そのとき、頼れるのはただ一つ――
**QRH(クイックリファレンスハンドブック)**
わずか数ページ先に、希望があると信じて。
機体の未来は、乗員の冷静さとその手順に託されている。
以下は、私が過去に乗務していたA320型機のQRH(Quick Reference Handbook)に基づく手順を簡略化した内容です。
現在の運航手順とは異なる可能性もありますので、あくまで訓練・参考用としてお読みください。
✍️ 構造と手順の理解が“希望”になる
全エンジン停止。だが、それは「墜落」ではない。
A320シリーズは、全発動機停止でも驚くほどの滑空性能と最低限の操縦機能を維持できる。
希望は、正しい手順と判断に基づく行動によって見えてくる。
🔧 最初にすべきこと:
-
🔘
EMER ELEC PWR MAN ON:非常用電源確保 -
📢
LAND ASAP:最寄り適切空港への即時意思決定 -
✈️
Optimum Relight Speed:280kt / M0.77 -
🔧
FAC1:OFF → ON再起動でバックアップ復旧の可能性
💨 滑空性能を活かす:
| 高度 | 通常滑空 | グリーンドット滑空 |
|---|---|---|
| FL200 | 40 NM | 50 NM |
| FL300 | 60 NM | 75 NM |
| FL400 | 80 NM | 100 NM |
⚙️ エンジン再始動オプション:
-
Windmill(空中風車再始動):FL300以下、
ENG MASTER OFF→30秒→ON -
APU Starter Assist:FL250以下でAPU起動、FL200以下で
APU BLEED ONし始動試行 -
再始動速度に注意:GREEN DOT表(重量・高度別)
⚠️ 降り方を選べ、滑走路か、水面か。
もし、どれだけ試してもエンジンが戻らないとしたら――
次に選ぶのは、「どこで降りるか」「どう降りるか」だ。
✈️ Forced Landing(地上):
-
FLAP 2:展開(スラットのみ作動) -
GRAVITY GEAR:手動操作で脚を出す -
VAPP(着陸速度) 例)70t→173kt
-
MAN PITCH TRIMは使用不能:無視してOK -
ブレーキはアキュムレータ圧(最大1,000 psi)のみ使用可能
🌊 Ditching(水上):
-
DITCHING pb:2,000ft AGLでON -
着水姿勢:ピッチ11°、最小沈下率で接水
-
波に平行に接水、強風時は風上へ
-
GEAR UP保持、FLAP 2
🛑 いずれの場合も、2,000ftでCABIN CREWへ通知、
500ftでBRACE FOR IMPACTをコール。
停止後は、FIRE pb → AGENT → EVACと段階的に実施。
🌅 空が静かになる時、心を研ぎ澄ます技術が生きる
飛行機は、たとえエンジンがすべて停止しても、即座に落ちるわけではありません。
それでも、空の沈黙は私たちに問いかけます――
「あなたは、冷静に選択できるか?」
限られた高度と時間の中、必要なのは判断力・操縦技術・連携力。
推力がない中で失速を避け、正しいグライド角を維持する技量。
クルー間・管制との確実な意思疎通。
そしてQRHやシステム知識に基づいた即応力が、命綱となります。
周囲の地形・天候・滑空距離などを瞬時に判断し、どこに、どう着陸するかを決める視野も不可欠です。
2009年の「ハドソン川の奇跡」――全エンジン停止から全員生還を果たしたあの事例も、
こうしたスキルと冷静さの結晶でした。
マニュアルのページは、沈黙の中でも語りかけてくれます。
正しい操作。伝えるべき言葉。そして、決して諦めない姿勢。
知識と冷静さ、そして仲間との連携が、空から地上へとつながる“見えない滑走路”になるのです。
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