ⅺ リベンジ・試験 ✈️🔥
ついに――この日がやってきた。
リベンジのIFR再試験。
かつて、NDB局近くで迷い込んだ“ホーミングの罠”。あの苦い記憶が、頭の奥に鈍く残っている。だが今回は違う。
僕はその過ちを繰り返さぬよう、何度も、何度も、自分の中で軌道修正を重ねてきた。
心に言い聞かせる――「乗り越えられる。今度こそ。」
早朝、まだ空が青白く霞む中、出発前のブリーフィングルームに僕は一人。静まり返ったその空間は、不気味なほどに無音で、時間の流れすら止まったかのように感じられた。
そのとき、ドアがわずかに軋み、まるで霧の中から現れる幽霊のように、試験官ピート・ディクソンがスッ…と入ってきた。
(来た…)
以前と違い、オーラル試験は免除。今回は実技一本勝負。ピートは目を合わせもせず、ただ軽くうなずくだけ。その無言の気迫が、かえって空気を凍らせる。
準備を終え、二人で機体へと向かう。
エンジンチェック、フライトコントロール、燃料系統、緊急装置――すべてに無駄なく、丁寧に手を通し、機体に語りかけるようにプリフライトを進めた。
今回のルートは前回と同じ、クライストチャーチ → アシュバートン → クライストチャーチ。
だがアプローチはNDBではなく、自信のあるVORホールディングとアプローチ。ほんの少し、心の中に光が差した。
Ashburton上空。
風は時折鋭く機体を揺さぶるが、姿勢を維持し、VORホールディングも完璧。時計を見ながら正確にターンを決め、アークアプローチにスムーズに移行する。
気流の抵抗と神経を研ぎ澄ませながら、ラインを維持し続けていたそのとき――
「ガチャ…」
ピートの右手が、スロットルにかかった。
「Left engine failure.」
静かな、しかし決定的な一言。
エマージェンシーだ。
深呼吸もせず、訓練で染み込ませた手順を正確に実行。
片発でのアプローチに即座に切り替える。トリムを調整し、姿勢を安定させ、片発の推力を繊細に操る。
ピートの冷ややかな視線を感じながらも、僕は一つ一つの操作を確かめるようにこなしていった。
そして、クライストチャーチへ向けた最終レグ。
締めはILS(計器着陸)アプローチ。
ローカライザーを捉え、グライドスロープにしっかり乗せる。
ギアダウン、フラップ設定、チェックリスト――すべてが流れるように展開されていく。
機体が滑走路に吸い寄せられていくその感覚に、緊張と高揚が入り混じる。
最終進入。
安定した姿勢のまま、滑走路が前方に現れた。
タッチダウン――その瞬間、機体と心が地に足をつけた。
ブレーキ、停止。
エンジン音が収まると、機内にはしん…とした沈黙だけが残った。
ピートは何も言わない。コックピット内には、風の音さえ聞こえないような静けさが支配していた。
数秒――いや、永遠のようにも思える時間が流れたその時、彼はようやく口を開いた。
「Well done. You’ve passed.」
その言葉が、胸の奥深くまで染み渡った。
張りつめていたすべてのものが、ふっとほどけていく。視界がぼやけた。
喜びと、安堵と、感謝と、…いくつもの感情が一気に溢れた。
合格――ついに、リベンジを果たした。
あの瞬間、ひとりではなかった。
教官、仲間たち、地元の友人たち――多くの支えがあって、今の自分がここに立っていた。
僕はようやく、「プロフェッショナルの空」への道を一歩すすんだのだ。
今日はここまでにします。
エアラインパイロットの憧れ....ホンマになれるよ...きっと😿
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