【✈️怒涛の我がエアライン人生】 私が経験した、ホンマの話。
序章
私のエアラインパイロット人生。
振り返れば、本当にいろいろな出来事がありました。
思わず笑ってしまう失敗。
冷や汗をかいた出来事。
そして、一生忘れることのできない緊急事態。
これから、今回のシリーズでは、そんな私自身が実際に経験した出来事を、当時の記憶をたどりながら、できるだけありのままにお話ししていきたいと思います。
教科書には載っていない。
マニュアルだけでは伝わらない。
私が経験した、本当のエアラインの世界です。
もちろん、安全上・守秘義務上の配慮から、会社名や便名など一部の内容は一般化しています。
Episode 1
「PAN PAN」を宣言した夜。
その日は深夜便でした。
北京を出発し、カンボジア・シェムリアップへ向かう帰りのフライト。
機内は消灯され、多くのお客様が眠りについていました。
飛行位置は中国・広州付近。
目的地までは、まだ半分ほどの距離が残っています。
巡航中のコックピットには、静かな時間が流れていました。
その時です。
コックピットのインターホンが鳴りました。
「Captain, we have a medical emergency in the cabin.」
客室乗務員からの連絡です。
「乗客が心臓発作を起こしたようです。」
その一言で、コックピットの空気が一変しました。
「機内にお医者様はいませんか?」
私はすぐに客室乗務員へ伝えました。
「機内にお医者様が搭乗されていないか確認してください。」
しばらくすると返事が返ってきました。
「Doctor on board.」
幸い、その便には医師が搭乗していました。
客室では医師と客室乗務員による救命処置が始まります。
一方、コックピットでは機長と私が状況整理を始めました。
ダイバートするべきか
患者さんの容体。
現在位置。
広州までの距離。
シェムリアップまでの距離。
各空港の天候。
燃料残量。
そして、
ダイバート先の医療体制。
近い空港ならどこでもいいわけではありません。
着陸後すぐに救急隊が対応できるのか。
高度な医療施設があるのか。
受け入れ体制は整っているのか。
機長と私は一つひとつ情報を整理し、
最終的に、
「広州へダイバートしよう。」
という結論に達しました。
「PAN PAN」
ダイバートが決まると、機長は機体の操縦に専念します。
PM(Pilot Monitoring)を担当していた私はATCとの交信を引き継ぎました。
送信ボタンを押します。
"PAN PAN, PAN PAN, PAN PAN."
"XXX101. One passenger has a suspected heart attack. Request diversion to Guangzhou and medical assistance."
ATCはすぐに応答し、
広州空港へのダイバートを承認。
さらに現地の天候や必要な運航情報を提供してくれました。
私は広州へ向かった場合の燃料計算を行い、
機長は広州へ向けて機首を変えます。
コックピットでは、それぞれが自分の役割を淡々とこなしていました。
その時、状況が変わった
しばらくして、
再び客室からインターホンが鳴りました。
「Captain...」
「患者さんの容体が持ち直しました。」
もちろん、それだけでシェムリアップへ戻ることはできません。
ここからもう一度、すべてを確認します。
私は現在位置からシェムリアップまで飛行した場合の燃料を再計算しました。
幸い、
シェムリアップ空港の天候は良好。
受け入れ体制にも問題はありません。
ただし、
通常の燃料ポリシーでは、シェムリアップ到着後のダイバート燃料までは確保できません。
しかし、
シェムリアップへ安全に着陸できる可能性は極めて高い状況でした。
患者さんの容体。
医師からの報告。
シェムリアップの気象。
医療体制。
そして燃料。
機長と私はもう一度話し合い、
すべてを総合的に判断した結果、
「帰ろう。」
そう決断しました。
通常であればダイバート用として確保している燃料を使用し、
私たちは再びシェムリアップへ向けて飛行を続けました。
フライトが終わっても仕事は終わらない
幸い、その後患者さんの容体が悪化することはなく、
私たちは無事にシェムリアップへ到着することができました。
しかし仕事は終わりではありません。
PANコールを宣言し、
ダイバートを開始し、
そして運航判断を変更した以上、
そのすべてについて詳細なレポートを会社へ提出しなければなりません。
航空業界では、
「なぜ、その判断をしたのか。」
その根拠まで含めて記録に残します。
あの日、私が学んだこと
パイロットの仕事は、
飛行機を操縦することだけではありません。
限られた時間の中で、
患者さんの容体、
天候、
燃料、
医療体制、
あらゆる情報を整理し、
最善と思われる判断を下すこと。
それもまた、私たちの大切な仕事です。
あの夜、コックピットで機長と共に下した一つひとつの判断は、今でも私のエアライン人生の中で忘れることのできない経験となっています。
これからも、このシリーズでは、私が実際に経験した「ホンマの話」をお届けしていきたいと思います。
【Author】
Haruo Shibasaki
Founder, Sora Fun Entertainment
Airline Pilot / A320 First Officer
Total Flight Time: 7,000h (A320: 4,000h)
📚 関連記事一覧
エアラインパイロットの仕事や海外エアラインのリアルについて、実体験をもとに発信しています。
▶ コラム一覧はこちら
目次
NEW
- query_builder 2026/09/06パイロット飛行機進路相談フライトスクール習い事 エアラインパイロットパイロットテクニカルマンツーマン資格飛行機エアバス海外就職中高生
✈️海外エアラインへの道 ― 6カ国・5社を渡ってきた私が見てきた世界 ― Ep2
query_builder 2026/09/01パイロット飛行機進路相談フライトスクール習い事 エアラインパイロットパイロットテクニカル体験資格飛行機海外就職中高生趣味✈️海外エアラインへの道 ― 6カ国・5社を渡ってきた私が見てきた世界 ―
query_builder 2026/08/25パイロット飛行機進路相談フライトスクール習い事 エアラインパイロットパイロットテクニカル体験子ども資格飛行機エアバス海外就職中高生✈️海外エアラインへの道 ― 6カ国・5社を渡ってきた私が見てきた世界 ―
query_builder 2026/08/25パイロット飛行機進路相談フライトスクール習い事 エアラインパイロットパイロットテクニカル体験子ども資格飛行機エアバス海外就職中高生受け継ぐということ ― 技術継承に必要なのは、知識だけではない ―
query_builder 2026/08/19パイロット飛行機進路相談フライトスクール習い事 エアラインパイロットパイロットテクニカル資格飛行機エアバス海外就職