【✈️コックピット裏話】「初めまして。」から始まるコックピット 機長と副操縦士は仲が良いのか?
■ 序章
私は長年、海外のエアラインパイロットとして乗務してきました。
その中で、本当に世界中のさまざまなキャプテンと一緒に飛んできました。
元軍人の方。
女性キャプテン。
異なる国籍の方。
非常に穏やかな方。
寡黙な方。
細かくブリーフィングを行う方。
経験談をたくさん話してくださる方。
年齢も、性別も、国籍も、文化も、価値観もまったく異なります。
一般の方は、
「機長と副操縦士はいつも同じペアなのですか?」
と思われるかもしれません。
しかし実際のエアラインでは、その日のブリーフィングルームで初めて顔を合わせることも珍しくありません。
「初めまして。よろしくお願いします。」
そう挨拶した1時間後には、二人で数百人のお客様を乗せて空へ向かいます。
これがエアラインの世界です。
■ 機長と副操縦士は上下関係なのか?
一般の方は、
「機長が指示を出し、副操縦士が従う。」
というイメージを持たれているかもしれません。
もちろん最終的な運航責任は機長にあります。
しかし、現代のCRMにおける世界標準の考え方は、単純な上下関係ではありません。
副操縦士も一人のプロフェッショナルとして意見を述べ、安全上の懸念があれば遠慮なく伝える責任があります。
年齢や経験年数に差があっても、二人が目指しているものは同じです。
それは、
安全に目的地へ到着すること。
コックピットは上司と部下ではなく、一つのチームなのです。
もちろん国や会社によって文化の違いはあります。
私自身が耳にする範囲では、日本の航空業界には今でも年功序列や伝統を重んじる文化が残っているという話を聞くことがあります。
表面的にはCRMの考え方が浸透していても、実際には意見を言いにくい空気や遠慮が存在する場面もあるのかもしれません。
一方、私が経験してきた海外のエアラインでは、
「誰が言ったか」ではなく、「その判断は安全か」
が優先されます。
だからこそ、副操縦士が意見を述べることは失礼ではありません。
それは安全を守るための責任なのです。
■ 相性はあるのか?
正直に言えば、もちろんあります。
人間同士ですから、考え方や仕事の進め方が違うことは当然です。
時には、
「以前の会社ではこうだった。」
「私はいつもこうしている。」
という話になることもあります。
中には独自の考え方を強く持っている方もいます。
もちろん参考になることもたくさんあります。
しかし、長年副操縦士として飛んできて学んだことがあります。
それは、
まず聞くこと。
そして、
必要以上に議論しないこと。
参考になるものは吸収する。
そうでないものは受け流す。
時には話題を変える。
もしこちらが牙を向ければ、相手もまた牙を向けます。
コックピットは議論に勝つ場所ではありません。
二人で安全に目的地へ到着することが最優先なのです。
■ 会話が信頼関係を作る
巡航中、比較的落ち着いた時間帯には、さまざまな会話が交わされます。
過去の乗務経験。
家族の話。
休日の過ごし方。
これまで経験したトラブル。
あるいは、
「昔こんなことがあってね。」
という貴重な経験談を聞くこともあります。
私自身、あるキャプテンに、
「Captain、○○してください。」
とお願いしたところ、
「My name is not Captain.」
と笑いながら言われたことがあります。
もちろんジョークです。
しかしその言葉の裏には、
役職ではなく、一人のパイロットとして仕事をしよう。
そんな考え方があるように感じました。
もちろん敬意は必要です。
しかし必要以上の上下関係を作らない。
それも海外のコックピット文化の一つなのかもしれません。
■ 時にはこんな笑い話もある
もちろんコックピットの仕事は真剣そのものです。
しかし、海外のエアラインではユーモアが場を和ませることも少なくありません。
私自身、運航の最終ラインチェックの際、試験官キャプテンからこう言われたことがあります。
「この質問に答えられたら合格にしてあげる。」
ラインチェック終盤。
私は少し緊張しながら、
「何でしょうか?」
と聞き返しました。
すると試験官は真顔で、
「日本のおねえちゃんと仲良くする方法を教えてくれ。」
その瞬間、コックピットは大爆笑になりました
もちろん、試験自体はすでに十分評価されていたのでしょう。
「もう君なら大丈夫だ。」
そんな意味を込めた最後のオチだったのだと思います。
厳しいチェックの場でありながら、最後には笑顔で終わる。
安全に対しては厳格でありながら、人としての温かさやユーモアも忘れない。
それもまた、私が海外のコックピットで学んだ文化の一つです。
■ ただし、安全だけは別である
もちろん、すべてを受け流せばよいわけではありません。
もし安全上の懸念がある場合、副操縦士は黙っていてはいけません。
エアラインでは、
① Relay(状況共有)
② Advise(提案・助言)
③ Assert(意見具申)
④ Take Over(必要時の介入)
という段階的なコミュニケーションが求められます。
例えば降下開始地点が近づいているにもかかわらず、機長が気付いていない場合、
"Captain, we are approaching top of descent."
まず状況を共有します。
次に、
"Shall we start descent?"
と提案します。
さらに必要であれば、
"Captain, we need to descend now."
と明確に伝えます。
そして、安全に重大な影響がある場合には、必要な介入を行います。
④まで進むことは極めて稀です。
しかし、安全に重大な影響がある場合には、役職や経験年数に関係なく行動する責任があります。
聞くべき時は聞く。
受け流すべき時は受け流す。
しかし、安全だけは決して妥協しない。
これが現代のCRMの考え方です。
■ おわりに
「機長と副操縦士は仲が良いのですか?」
その答えは、
仲が良いことよりも、信頼できるチームであること。
初対面でも。
年齢差があっても。
国籍が違っても。
性別が違っても。
価値観が違っても。
数時間後には同じ目標に向かう。
それがコックピットの世界です。
誰が偉いかではありません。
誰が正しいかでもありません。
最も重要なのは、
何が最も安全なのか。
その一点を共有し、二人で目的地へ向かう。
それがエアラインパイロットの仕事なのです。
✈️代表の一言
私自身、海外のエアラインパイロットとして、世界中多くの国籍や文化、価値観を持つキャプテンと飛んできました。
その中で強く感じるのは、エアラインパイロットに必要なのは操縦技術だけではないということです。
相手の話を聞く力。
異なる価値観を受け入れる力。
時には受け流す力。
そして、安全のためであれば立場に関係なく意見を伝える勇気。
これらすべてが、長く空を飛び続けるために必要なスキルだと感じています。
海外のコックピットでは、今日初めて会った二人が、数時間後には一つのチームとして空を飛んでいます。
そのチームを支えているのは肩書きではありません。
信頼、コミュニケーション、そして安全に対する共通の価値観です。
これからパイロットを目指す皆さんにも、操縦技術だけではなく、人との関わりやコミュニケーションの大切さを学んでいただければと思います。
空の上では、時に真剣に議論し、時に笑い合いながら、一つの目標に向かって飛んでいます。
それこそが、エアラインパイロットという仕事の本当の魅力なのかもしれません。✈️
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【Author】
Haruo Shibasaki
Founder, Sora Fun Entertainment
Airline Pilot / A320 First Officer
Total Flight Time: 7,000h (A320: 4,000h)
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